「上杉景勝」 近衛龍春 著

近衛龍春さんの新刊「上杉景勝」をやっと読み終えたのですが。

景勝さまは、

「こなくそ!」

などと言ったりはしませんっっ!


私が「こなくそ」という言葉から連想するのは山本太郎くんです。
山本太郎くんといえば原田左之助。
そう、「こなくそ」が伊予松山の(あるいは四国の)方言であるということを学んだのは、
2004年の大河「新選組!」を見ていたときです。
坂本龍馬が暗殺されたとき、一緒にいた中岡慎太郎が、
「犯人がこなくそと叫んだ!」と証言したことにより、
松山出身の新選組隊士・原田左之助が疑われることになったわけですが、
簡単にググってみたところ、「こなくそ」とは四国以外では言わない模様。
それなのに、長尾顕景(あきかげ)時代の景勝さまが、「こなくそ!」と言っているのです。
もしかしたら当時の越後では「こなくそ」って使ってたのかもしれないけど、
でも、おかげでしばらく景勝さまが左之助ヴァージョンの山本太郎くんでイメージされてしまい、
「うおー、全然違う><」と、何度も頭を振ることになってしまいました……。

上杉景勝 (学研M文庫 こ 9-4)上杉景勝 (学研M文庫 こ 9-4)
(2008/04/08)
近衛 龍春

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それにしても本作、遅々として読み進みませんでした……。
正直なところ、それは「こなくそ」のせいだけではないんです。
すでにびびんばさんが「己鏡」の中で、「凹んだ」と書いておられたので、
ある程度覚悟はしていたのですけれど、「愛」が足りないんです。作者の愛が。
あ、直江兼続の兜の前立てにかけてるわけじゃないです。

近衛さんは過去に景勝さまのライバルだった三郎くんを主役にした長編力作を書いておられ、
そのときは作中の人物にちゃんと愛情が感じられました。
主役の三郎くんへはもちろんのこと、敵対する景勝さまにさえ気持ちが入っていました。
ところが本作は、どうしても「棘」を感じてしまう。
景勝さまだけでなく、直江くんにも、三郎くんにも、
そして景勝さまと三郎くんの間を取り持った武田勝頼や当然徳川家康にも。
私としては、 「上杉三郎景虎」の対になる作品として、
今回は景勝さま視点でリンクするように描かれるのでは……と思っていたのですが、
その期待は見事に裏切られてしまいました。
それで面白ければ、別な作品として楽しめるんですけれど、うーん……。

だいたい、作中の景勝さまは、ずーーーーーーーーーーーーっと怒りっぱなしなんですよね。
短気とか癇癪持ちとか、そういうんじゃなくって、とにかく最初から最後までお怒りモード。
無口で無表情で、兵たちが敵将よりも主人を恐れたという逸話があるくらいですから、
親しみやすい人ではなかったとは思いますけれども、これはちょっとなーって。
なんというか、感情の振れ幅がないので、読んでて飽きちゃう。(苦笑
多分これって近衛さんの特徴なのじゃないかと思うのですけど、
ここでの景勝さまも、やっぱり受動的なんですよね。
考えがないわけじゃないんだけれど、直江くんに言われてから動く……みたいな。
私、「上杉三郎景虎」を読んだときと同じことをこの作品にも感じました。
主役がね、「したたかさ」に欠けるんですよ。
だからこう、何かイマイチ作中に入りきれないというか……。
いや今回の場合、近衛さんは三郎くんのほうに思い入れが強すぎるんだな。
謙信は跡継ぎを三郎くんと定めていたはず、と思うがゆえに、
景勝さまを「義」と「不義」でがんじがらめにしてしまったんでしょう。
実際はこんな感じだったのかもしれないけれど、
それならそれでもうちょっと書きようもあったのでは……と思っちゃうんですよね。

それから、史料を駆使してドキュメンタリータッチで描くというのも近衛さんの特徴のようで、
今作も日付から人から詳細に記されてはいるんですけれど、
描く期間は長いけど枚数は少ないという今回は、それがかえって災いしてしまったのでしょうか。
人を描くことよりも、史実を描くことが優先されてしまっているようにも感じたのですが。
そのわり、謙信跡目相続争いにページの半分以上を割き、
それ以降が超早足だったっていうのはバランス悪すぎませんかねえ。

この辺りが、私にとっては読みにくい要因だったように思います。
大坂冬の陣に向かう前の景勝さまと直江くんの「義問答」は面白かったですけれども……。
無駄に長いレビューですみません。
景勝さまスキーとして、「棘」を感じまくったゆえの感想かもしれません。あしからず。

4 Comments

びびんば  

あー、よかった!

「愛が感じられない」は、いい表現ですね~(^O^)
その通りなんです(><;)
しかも、性格が無駄に気性難というか…
この方が書いた「佐竹義重」も気性難っぽかったですけど
景勝君と比べたら、まだ納得がいく気性難でしたけど…
(愛が感じられたし…)

景勝君が『気難しい人』として描きたかったのでしょうが
それが「プラマイゼロ!むしろマ~イ!」になったようですね…(毒)

2008/04/23 (Wed) 06:21 | REPLY |   

カタリーナ  

■びびんばさん

>景勝君が『気難しい人』として描きたかったのでしょうが
終始お怒りモードだったのは、気難しい人という演出なのですね……。
それにしても怒ってばかっりで、謙信叔父さんとは別な要因で、
景勝さまも脳卒中になるんじゃないかと思いました。(苦笑
私も美化して欲しいなどとは思いませんが、
主役に対して作者の愛情をもっと注いで欲しかったですね~。
景勝さまに対する情が足りない分、周りの人たちもどこか冷たくなってしまって、
仰るとおり、読んでてすっごく凹みました……。

2008/04/23 (Wed) 21:23 | EDIT | REPLY |   

木暮兼人  

気難しい方は

常に怒ってる方とは限らないと思うのだけど
沈思黙考タイプかもしれませんし。

戦国大名もある意味政治家でしょうから
したたかさの表現はあった方がいいのかしら
ただ怖いだけでは部下はついてきません・・・

2008/04/24 (Thu) 00:09 | REPLY |   

カタリーナ  

■木暮兼人さん

作中の景勝さまは、本当にずーっとイライラしています。
怒鳴ったり唸ったり、扇子折ったり脇息投げたり。(苦笑
何でそうなっちゃったんでしょうか……。

主役が常に受身というのは、読んでいるほうもイライラします。(苦笑
毎回、「怒る→直江くんに諌められる→直江くんの提案に同意する」という格好なので、
気難しいを通り越して、ひどく短慮な性格にも見えてきたり。
もうちょっと景勝さまとしても、また作品の主役としても、
出るべきところは出てくれないと。
そんな二重の意味で「したたかさ」が欲しかったなと思いました。
仰るとおり、怖いだけでは部下はついてきませんよね。
いくら「怖かったエピソード」があるからといっても……。

2008/04/24 (Thu) 01:39 | EDIT | REPLY |   

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