「天地人」 火坂雅志 著

読み終わりました。
2009年NHK大河ドラマ原作本。

上巻の腰巻に、

上杉謙信、直江兼続、真田幸村、
義をつらぬいた男たちの美しき生き様


とあるんですが、「なぜ景勝さまはスルーなのですか!?」
という疑問をしょっぱなから抱きつつ、読み進めたのですが。
私、歴史小説の在り方がわかんなくなってしまいました……。(苦
以下、辛口にならざるを得ないのと、ちょっとネタバレもあるので、
読んでもいいよという方のみ、ずいずいっと下のほうへお進みください。

天地人〈上〉
天地人〈上〉

(2006/09)
火坂 雅志
天地人〈下〉
天地人〈下〉
(2006/09)
火坂 雅志















最初に書いちゃいますけど、これ、正直なところドラマのあらすじでしかありません。
深い心理描写があるわけでもなく、手に汗握る合戦シーンがあるわけでもなく、
人と人とのぶつかり合いや葛藤があるわけでもなく、ただ史実を追うように話が進む。
端的に言えば、年表の合間にちょっとしたエピソードがはさまれているようなものです。
これはドラマのプロットですと言われれば納得ですが、小説と言うのはどうなんでしょうか。

人物描写もとにかく薄くて欲求不満になります。
兼続は主役ですからいたるところで描かれてはいますが、その設定もかなり大雑把。
容姿端麗で頭が良く、謙信から受け継いだ義を重んじる人物だということは、
その通りに文章で書いてあるので「そうなんでしょう」と思うことはできます。
しかし作中の行動からそれを深く感じ取ることはできません。
兼続のセリフにはパターンがあって、何かの事件が投入されたとき、
必ず相対する人物に反対のことを言わせ、それに対して正論を述べるようになっています。
結局いつも人の意見を否定、とまではいかなくとも、正す、諭す形になるので、
反発を覚えなくもありません。
その意味では、石田三成との密談シーンは、三成が気の毒です。
さらに兼続といえば、主君上杉景勝と切っても切れない関係のはずなのですが、
その景勝もただそこにいるだけで、2人の関係は見えてきません。
互いに信頼しあう仲だということは書いてあるけれど、それとわかる決定的な場面はない。
これじゃあ、腰巻に名前は載らないよな。(苦笑
その腰巻にある真田幸村は、確かに兼続と「義」という教えで繋がっていますが、
その幸村もまるで人物が見えない描かれ方なので、結局なんだったのかと思ってしまう。
ドラマ用に投入したと言われている架空の女性たちも、意味ある絡みもなく、
エピソードとして華を添えることはできるかもしれませんが、
はっきり言って話の筋には関係ないし、あんな終わり方ならいらないと言いたい。
要するに、多くのことが地の文で説明されるのみで、私たち読者に、
「人物のセリフや行動から彼らの心を感じ取る」という愉しみは与えてくれないのです。

でもいいシーンもありました。
家康の腹心・本多正信が、景勝・兼続主従の絆を確かめるために鎌をかけます。
ここで景勝がきっぱりと言うのです。

「無責任な噂を、さも事実であるがのごとく、
徳川内府どのの面前で披露するは、はなはだ遺憾。
わが上杉家の臣に、義にそむくものは断じてなしッ」
   (下巻P259)

拍手喝采っ! 景勝さま(多分)唯一の見せ場です。

さて、ここからはドラマ化を前提にして書きますけれど、
ドラマの成功の鍵は、脚本家とプロデューサーが握っていると言えます。
初めに、この小説は「年表の合間にちょっとしたエピソードがはさまれている」ようなもの、
と書きましたが、まさしくそこがポイントです。
細かい描写がないので、ドラマにする際いくらでも変形させることができるし、
いろんなエピソードを加えても、話の筋に影響は出ません。
これが吉と出るか凶と出るか、良作になるかならないかの分かれ目でしょう。
同じポイントで、歴史小説に慣れていない人には読みやすいというのもあります。
景勝が率いた上杉家は、信長、秀吉、家康と、戦国から泰平へと至る、
まさに過渡期を生き抜いたことになるので、
その道のりは、知ってみると実はとても波乱万丈なのです。
それを簡単にサクサク読み進められちゃう面白さはあるかもしれませんが、
少しでも歴史に興味がある人には、物足りなさは否めないと思いました。

私にしては、珍しく辛口レビューになってしまいましたが、
ドラマとして放送されるときには、ぜひとも深い作品に変化していることを願います。

2 Comments

びびんば  

仰るとおり

コメントありがとうございましたm(_ _)m
「天地人」を読み終えたときに、これほど薄い小説初めてだと感じてしまい・・・(汗)
正直、大河ドラマとしては不安を覚えてしまいました!
ドラマになればまた違うかもしれないと、ポジティブに考える事にします^^;

ところで「われ謙信なりせば」という小説はもう読まれましたか?
私の中では、景勝&兼続の小説の中で、一番のオススメです
「天地人」よりはずっと面白いです(爆)
では、また^^

2007/12/28 (Fri) 01:07 | REPLY |   

カタリーナ  

■びびんばさん
ご訪問ありがとうございます。
同じ様な感想の方がいらっしゃって安心しました。
実は私の周りでは、ものすごく評判がいいんですよ!(驚
みなさんわりと年配の方ばかりなんですが、
「こんな面白い小説読んだことない!」と熱弁を振るわれてて、
私としては肩身が狭かったんです……。

>われ謙信なりせば
こちらにはまだ手を出していません。
図書館に行くたびに目にしてはいたんですけど。
お勧めとあらば、読んでみなくては!

2007/12/29 (Sat) 00:00 | EDIT | REPLY |   

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