暁の旅人  吉村 昭 著

「愛しき友」バトンに回答するにあたって、悩んだ項目がある。
 【Q6.幕末にタイムスリップ!どうする?】  「絶対コレ!」というものがなかったので、かなり真剣に考えた結果、
【とりあえず松本良順先生のところへ弟子入り!
幕末の動乱の渦中にありながら、冷静に公平に時勢を観察してみたいですね。】と書いた。
とはいえ、その松本良順のことは、その辺の人物伝に書いてある程度のことしか知らない。
幕末、日本は幕府側か新政府側かに分かれざるを得ず、あの時代の真っ只中を生きる人間が、
時の情勢を冷静に俯瞰的に観察することは難しかっただろう。
しかし彼は蘭学を学び、その上医師である。
幕府側の人間であっても、その立場上、世の中を公平に見ることができたのではないか。
そんな思いから、真面目に答えたつもりだった。
すると、俄かに松本良順を知りたくなってしまった。
そこでこの小説「暁の旅人」だ。

暁の旅人暁の旅人
(2005/04/26)
吉村 昭

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緻密な取材と資料の積み重ねでノンフィクション小説を書くといわれる吉村氏は、
ここでも松本良順の心内に踏み込むことなく、事実を淡々と綴っている。
しかし、そんな彼の人生を追っていくうちに、人となりが見えてくるから不思議だ。
幕府に殉じるつもりであったのが、結局新政府に仕官することになった経緯は、
読んでいて充分に納得できるものがある。
後世に残さねばならない医術を持っていたからこそ、彼は生き残った。
決して命が惜しかったわけでも、名誉心があったわけでもない。
医者が医者としてあるために、絶対に失ってはならない「心」を貫いたのだ。
技術だけでなく、そんな松本良順の姿勢を見抜いていたからこそ、
松平容保公は敗戦色濃い会津からの脱出を勧め、土方歳三は蝦夷行きを止めたのだろう。

幕末維新の時代は、日本の社会が大きく変化しようとしていたときであり、
医療の面でも漢方医から蘭方医へと移り変わっていくまさに「暁」の時だった。
その荒波の中を驚くべき行動力で渡り歩いた松本良順は、
「暁の旅人」というタイトルが相応しい人生を送ったことを知った。

2 Comments

Aki_1031  

おおおっ!カタリーナさん、「暁の旅人」読まれたのですか~。
私もチェックは入れていたのですが未読だったので
記事を興味深く読ませて頂きました。
うむむ、とことん良順センセが主体の本なのですねー。
面白そうだし、買っちゃおうかなぁ…(笑)

2006/01/30 (Mon) 12:11 | EDIT | REPLY |   

カタリーナ  

■Akiさん
小説というより、これは伝記ですねー。
歴史小説のつもりで読み始めると、
ちょっと物足りないかもしれません。
本当に「気持ち」とかが省かれてるので。
でも逆に、自分で想像を膨らませることもできるし、
読み方によっては非常に面白いかと思います。

2006/01/31 (Tue) 00:00 | EDIT | REPLY |   

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