【三谷幸喜×アガサ・クリスティ】黒井戸殺し

アガサ・クリスティの問題作「アクロイド殺し」を原作に、
三谷さんがドラマ化にチャレンジした「黒井戸殺し」。
3年前の「オリエント急行殺人事件」に続く、三谷×クリスティ第2弾です。

黒井戸殺し

これが3時間もあったなんて思えない、本当に見ごたえあるドラマになっていました!
実は前作が私が期待したほどの作品ではなかったので、
今回もあんな感じなんじゃないかと思って、あまり視聴には乗り気じゃなかったんですよ。
しかし小説の発表当時に物議を醸した叙述トリックをどう表現するのか、
そこのところが見たくて「ながら見でいいかな~」なんてつもりで見始めて、
結果的にガッツリかぶりつきで見入ってしまっていました。
やっぱり三谷さんは宛て書きの脚本家だなとつくづく思ったのですが、
役者のイメージを利用したキャスティングが見事に当たりましたね。
大泉洋さんは振り回される人間をやったら天下一品で、
損な役回りの人間の実直さみたいなものが「売りのひとつ」でもあると思うんですが、
「大泉洋が犯人なわけがない」と視聴者に思い込ませることが、この作品の鍵でもありました。
また野村萬斎さんの勝呂という探偵は、かのエルキュール・ポアロなわけですが、
「オリエント~」のときはその役作りにどうにも違和感が拭えませんでした。
しかし今回バディとして大泉さんが登場し、誠実なツッコミを入れてくれることで、
探偵としての特異な存在と、勝呂(ポアロ)の少々変わったキャラクターがしっかり馴染みました。
斉藤由貴さんはエキセントリックなキャラクターを自然に演じられる女優さんですが、
今回も「おしゃべり好きで遠慮がなく、周囲の迷惑には無頓着」というキャラクターを、
とてもチャーミングに演じておられました。
別な意味でキーパーソンなのですが、またそれを感じさせないところが、
謎解きをする段階で「驚き」を与える存在になっていたと思います。
私は始めからネタも犯人もわかってしまっていましたが、
何も知らない状態で見ていた方々には、誰が一番怪しく見えたんでしょう?
三谷さんが「パッと見て誰が犯人かわかるようなキャスティングはしたくない」と話されていて、
確かに三谷作品に登場する役者さんたちは一癖も二癖もある方が多いので、
こういう「オールスター作品」にはもってこいだったんだなと改めて思いました。

それにしても、野村萬斎さんと大泉洋さんのコンビはピタリとはまっていましたね。
ラストのふたりの対峙は、本当に胸に迫る良いシーンだったと思います。
こういう会話劇は三谷さんの真骨頂でもありますが、
おふたりの芝居もとても良くて、正義や罪や切なさが交錯する、
とても密度の濃い空間が作られていました。
ミステリーには必ず探偵や刑事が犯人を追い詰めるシーンがありますが、
ただの謎解きではない人間ドラマの描かれ方に、「三谷版」を感じもしました。
だからこそ、大泉さんをこのシリーズには再度キャスティングできないことが残念でなりません。
このままポアロとヘイスティングスでも良かった気がします。
もっとふたりのバディが見てみたかった。
公式サイトのキャッチコピーは、今回も完全なネタバレでしたね。
ドラマを見終わってまたこの言葉を見ると、胸を刺されるような痛みを感じます。

舞台を英国から日本へ移したことで横溝正史的な雰囲気を醸しつつ、
三谷さんのちょっとした笑いも折り込まれた、素晴らしい翻案作品でした。
今もまだ、萬斎さん、大泉さんのラストシーンが、余韻となって心を揺さぶっています。

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