宝塚星組公演『ドクトル・ジバゴ』

星組の赤坂ACTシアター公演『ドクトル・ジバゴ』を観てきました。
ぜんっぜん行くつもりにしていなかったので、予習もなにもないままの観劇だったのですが、

これがすっごく良かった!

私が事前に知っていたのはオマー・シャリフ主演の映画があることと、
ロシア革命下の愛憎劇であるということのみ。
しかもヅカヲタのブランクが長すぎて、生徒さんたちの顔すら知らないというのは、
宝塚を見る上では結構致命的なんじゃないかと危惧していました。(苦笑)
去年スカピンを観に行ってるんですけど、まだ沼に還ってきていなかったので、
生徒さんチェックとか全くしていなかったんですよねー。
とりあえず轟理事とみっきぃこと天寿光希さんは認識していますというレベルで、
正直なところ、話も座組もわからなくて大丈夫かな……という状態だったのですが、

これがすっごく良かった!(大事なことなので二度言いました)

まず原田先生の演出が見事。
白い布と映像だけで、貴族の館からロシアの大地まですべて見せてくれました。
布ひとつで、舞台が館の小奇麗な居間になったり、延々続く白樺並木に見えたりするんです。
セリも盆もない中でコンパクトに場面転換を図っているので、見る側の集中力が途切れません。
まるでストプレのような雰囲気で、これはもう宝塚だけど宝塚じゃない世界。
脚本的にも無理なくしっかりとまとめられていて見ごたえがありましたし、
空間がきりりと締め上げられて、ものすごく緊張感のある舞台に仕上がっていました。
たびたび目に耳にしていたことですが、
これが「出演者の芝居力が格段にアップする理事効果」というものなんでしょうか。
いずれにせよ「良い意味で期待を裏切られる」とはまさにこのこと!
原田先生や出演者だけでなく、携わったスタッフみなさんに拍手を贈りたい気持ちです。

星組『ドクトル・ジバゴ』

○轟悠(ユーリイ)
理事を拝見するのは、それこそ雪組三兄弟時代以来。(←何年前だ)
「あのときの末っ子が、今や理事様に……!」というのはさておき、
もうね、佇まいが違いました。
立っているだけで貴族。立っているだけで誠実な青年。
星組子との経験値の差がむしろ効果的だったようで、
革命の時代に「人間の理想を唱える」というその浮きっぷりが、際立っていました。
家族や仲間を思う優しさと、理想を追い求める頑固さと、妻がありながら別な女に溺れる甘さ、
そして何より「人を愛する」暖かさがダイレクトに伝わってきて、
「人はなぜ生きるのか」ではなく、「どう生きたのか」を見せられたように思います。

○有沙瞳(ラーラ)
3人の男に求められて全員と関係をもつ女性。
決して奔放な女性ではないのだけれど、
ヒロインとしては共感しづらい役なのではないかと思います。
彼女は平凡なお針子で特別これといったものを持っているわけではない。けれどモテる。
それは、彼女に「ほとばしる生命力」があるからなんですよね。
この革命の混沌とした時代だからこそ、男性は本能的に彼女の溢れんばかりの「生気」を求めてしまう。
そして彼女がその3人に応えてしまうのも(1人は不本意とはいえ)、
彼女自身がとにかく「生きたい!」と強く強く思っているから。
くらっちはセリフも力強く歌声も伸びやかで、ラーラの命が輝いて見えました。

○瀬央ゆりあ(パーシャ)
平凡な学生活動家から冷徹な革命家へ。
己の抱える負の感情で自分自身を破滅させてしまった悲劇の青年です。
せおっちは革命家になってからの立ち姿がとにかく素敵でした。
それはみんな大好き軍服姿だからではありません。
胸の底に澱のようにたまった負の感情が、首元から、背中から、指先や靴底から、
ドライアイスの煙のようににじみ出ていて目が離せないのです。
そして圧巻のラスト。
妻に裏切られたと信じ込んで革命に身を投じ、冷酷非情になってしまった人間が、
最後の最後に純朴な青年時代の心を思い出し、正気と狂気の狭間で死んでいく。
役者冥利に尽きる華々しい死に様は、主役並みの名場面となりました。

○天寿光希(コマロフスキー)
優しい声で悪魔のようなことを囁く男。
みっきぃのことはロミジュリで「ジュリエットー!」ってKYな歌を歌っていたパリスで知ったので、
それがこんないやらしくて胸くそ悪い、でも宝塚的には「エロいイケオジ」を演じられるようになって、
なんだかもう感無量といいますか、これが宝塚を見続ける楽しみよねと思った次第でございます。(笑)
甘く囁いたり冷たく脅したりしながらラーラに迫る姿。
パーティー会場で他の参加者を品定めし、見下しながら歩き回る姿。
成り上がり者のいやらしさと、性的ないやらしさと、
もう本当にどこからどこまでもいやらしい。(1000%褒めてます)
でもそれは、この男もこの男なりに、混乱の時代を必死に生きているってことなんですよね。
革命という時代を生き抜くことがいかに大変かを体現したひとりが、コマロフスキーかもしれません。

○輝咲玲央(アレクサンドル叔父)
存在がまさに大学教授!
作中には描かれませんが、人柄は暖かく、学生のことを考え、
きちっと導いてくれる教授だろうと感じました。
長く生きているからこその余裕とか、頭の固さとか、家族を思う優しさとか、それゆえの脆さとか、
そうしたものが折々に伝わってきて切なくなります。
ごくごく普通の父親像ではあるけれど、狂気の時代の中にあって、
唯一ホッとさせてくれる人物でもありました。
娘や甥を見守る姿が本当に暖かくてね、こちらまで「お父様」と呼びたくなってしまう。
いぶし銀の素敵なオジサマができる人として、私、今後大注目したいです。
(今調べたら、92期なんですね?! 92期……)

○紫りら(オーリャ)、小桜ほのか(トーニャ)
オーリャは革命後に党員として働きますが、
「己が正しいと信じたことは絶対に正しい」と思って行動する厄介な女性。
りらちゃんは革命前のお針子時代から、そういう「キツさのある女性」として演じていて、
「わ、ちょっと苦手」と思っていたらやはりの展開。さすがです。
トーニャは貴族の令嬢でありながら、革命を耐え、家族を守って生き抜く女性。
ラーラとはまったく違う性格ですが、別な形で力強く生きた人です。
ほのかちゃんも、革命前の可憐なお嬢様が、
妻として母親として女として強くたくましくなっていく様を好演していました。
ふたりとも美声の良い歌を聞かせてくれて耳福。

他のメンバーも革命に参加する市民や軍人、貴族など、
頼もしいパワーと団結力で見せてくれました。
「これは星組かしら?」とさえ思う仕上がりでしたが、
特に革命家たちの場面や軍隊の場面には星組らしさを感じ、
今の星組若手メンバーにピッタリの作品だったのだなとも思いました。
これはいつかどこかで再演されるかもしれないですね。

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