神隠し(藤沢周平)

神隠し
藤沢周平

藤沢周平氏は、小山本周五郎と称されることが多かったという。
確かにどちらも江戸期を書き、武家ものでも市井ものでも、
描写のリアル感とストーリーの面白さ、そして爽快感を持って、
あっという間に人を引き込む世界を創り上げている。
作風としては、似ていると言われるのも頷ける。
しかし、どちらかと言えば周五郎作品からは江戸の活気が溢れるが、
藤沢作品からはしとやかな江戸情緒が漂ってくるように感じる。

そんな藤沢作品から、今回は「神隠し」という短編集を読んでみた。
全11編の作品のどれにも、今の世に相通じるものがある。
不器量な少女が追われる武士をかくまっているうちに、
その武士に恋してしまう「鬼」。
かつて道楽と暴力の限りを尽くした父の老いた姿に哀れを感じ、
面倒を見ようと引き取った長男の人生を描いた「疫病神」。
初恋の相手への思いを断ち切れずにいた男が、
ひょんなことから本当の姿を知ってしまうという「暗い渦」。
全11編の中で最も印象的だったのは「小鶴」。
子供がなく、派手な夫婦喧嘩の絶えない家に、
ある日記憶を失った娘がやってくる。
美しい娘との生活は、夫婦の心に優しさと暖かさを与えた。
顔を合わせれば諍いばかりしていた夫婦が穏やかになり、
いつしか家が明るい光で満ちていくようになるさまは、
読んでいてこちらまで笑みが洩れてくるほどだった。

人の心はいつの時代も変わらないのだと感じた1冊だった。

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